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令和6年1月1日からのマンションの相続税評価 【税務レポート】

令和6年1月1日からのマンションの相続税評価

解説:日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

令和6年1月1日から相続等で取得した、マンションの相続税の計算ルールが変わります。
「タワーマンション節税」を封じ込めるためだけでなく、相続税の評価額の適正化(評価額の乖離を減らすこと)を目的としたものと考えられます。

Ⅰ.現行のマンションの評価方法(令和5年12月31日まで)

相続等で取得した財産の時価(マンション一室の評価額)は、不動産鑑定価格や売却価格が通常不明であることから、次の①と②の合計額としていました。
①建物(区分所有建物)の価額=建物の固定資産税評価額×1.0
②敷地(敷地利用権)の価額=敷地全体の面積×共有持分×平米単価(路線価等)

Ⅱ.マンションの相続税評価額と市場価格の乖離

令和5年の税制改正大綱には、マンションの相続税評価額と市場価格の乖離に注目し、「マンションの相続税評価については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ適正化を検討する」と明記されていました。
国税庁の資料(平成25年~30年のサンプル調査)によると、マンションの約65%は評価額が市場価額の半額以下、平均で市場価格の4割程度になっていました。市場価格が高額なタワーマンションなどでは節税対策につながる実態がありました。 

Ⅲ. 相続税評価額と市場価格とが乖離する原因

・建物の固定資産税評価額は、再建築価格をベースに算定されています。他方、マンションの市場価額は建物の総階数、マンション一室の所在階数、築年数なども考慮されます。
・敷地利用権は、共有持分で案分した面積に平米単価を乗じて評価しますが、この面積は一般的に高層マンションほど細分化されるため、敷地持分が狭小なケースは立地条件が良好な場所でも、評価額が低く計算されます。市場価格では重要な立地条件の反映が不十分な結果となっています。

Ⅳ. 新しい計算方法の確認(令和6年1月1日から)

① 建物(区分所有建物)の価額=建物の固定資産税評価額×1.0×区分所有補正率
②敷地(敷地利用権)の価額=敷地全体の面積×共有持分×平米単価(路線価等)×区分所有補正率
建物(区分所有権)部分と敷地(敷地利用権)部分の価額に「区分所有補正率」を乗じて相続税評価額(評価額)を算定します。
「区分所有補正率」は、マンション一室の理論的な市場価格と現行の評価額との乖離の割合を示す「評価水準」で異なります(評価水準=1÷評価乖離率)。

1,区分に応じた評価
(1)評価水準>1(評価水準が1を超える) ⇒ 現行の相続税評価額✕評価乖離率「区分所有補正率=評価乖離率」となり、適正額まで評価額を引き下げます。「現行の財産評価基本通達による相続税評価額」が「市場価格」より高くなっているということです。
(2)0.6≦評価水準≦1 ⇒  「評価水準」が0.6以上1以下の場合、「区分所有補正率」は適用されません(改正の影響はありません)。
(3)0<評価水準<0.6  ⇒ 現行の相続税評価額✕評価乖離率✕0.6
「評価水準」が0.6未満の場合、「区分所有補正率=評価乖離率×0.6」となり、評価額を引き上げることになります(現行の財産評価基本通達による「相続税評価額」が「市場価格」より大幅に安くなっているということです。今回の改正の理由がここにあります。マンション一室の評価額を市場ベースに戻して、その6割での評価となります)。
(4)評価水準≦0  ⇒ ゼロ評価
評価乖離率が負数や零のものは評価しません。
※評価乖離率を求める算式及び評価水準に係る0.6の値については適時見直しがされます。

2.算定のための計算式
評価乖離率=A+B+C+D+3.220
A:築年数(端数は1年)×(-0.033)  ⇒ 老朽化で評価減
B:総階数指数(総階数÷33)(1が限度)×0.239  ⇒ 総階数が33階を超えるものは全て1
C:所在階(複数階にまたがる場合は低い階、地階にある場合は零階 )×0.018
  ⇒ 自室所在階の高さで評価増
D:敷地持分狭小度( 敷地利用権の面積÷専有部分)×(-1.195) 
   ⇒ 敷地の持ち分と自室面積の差に応じた評価の調整

Ⅴ.計算例

令和6年1月1日現在として計算
令和3年4月11日新築 44階建てタワーマンション 居住階35階(専用部分面積60㎡)
土地の敷地3,000㎡  敷地所有権割合1/250
A:3×(-0.033)=-0.099
B:44÷33=1.333(少数点以下第4位未満切捨、1が限度) 1×0.239=0.239
C:35×0.018=0.63
D:3,000×1/250=12㎡  12÷60=0.2  
0.2×(-1.195)=-0.239(少数点以下第4位未満切上)
 A     B     C     D
-0.099 + 0.239 +  0.63 + -0.239 + 3.220 = 3.751(評価乖離率)
評価水準=1÷評価乖離率  1÷3.751=0.2665955……
評価水準が0.6未満 ⇒「区分所有補正率=評価乖離率×0.6」 3.751×0.6=2.2506
区分所有補正率が2.2506となり、元の評価額の2倍以上になります。
※建物(区分所有建物)の価額=建物の固定資産税評価額×1.0×2.2506
新しい計算式で計算した場合、常に評価が上がるとは限りません。従来と同じか評価が下がる場合もあります。

Ⅵ.最後に

上記の複雑な算式について覚える必要はありません。

今後、国税庁HPで評価乖離率又はマンションの相続税評価額を自動計算してくれるようなツールが公表される予定です。評価乖離率を計算するための要素(築年数、総階数、所在階、マンション全体の敷地面積、マンション一室の敷地権割合)だけ把握できれば良いのです。

「区分所有補正率」を適用して算出した居住用の区分所有財産については、従来通り貸家等の評価や小規模宅地特例等を適用して計算することができます。
総則6項との関係
「区分所有補正率」が適用される場合でも、相続税評価額は市場価格(理論値)の6割相当額に引き上げられるにすぎないため、依然として市場価格との一定程度の乖離はあると言えます。そのため改正後も、相続開始直前に借入金で市場価格との乖離が著しいタワーマンションを取得する等の節税策として取り組む方もいるかもしれません。新通達による評価が著しく不適当と認められる場合は、やはり、評価通達の総則6項(国税庁長官指示による鑑定評価額等での評価)が適用されます。
評価水準が「0.6以上1以下」の場合や1棟保有のマンションなど「区分所有補正率」が適用されない場合、これまで通り「区分所有補正率」を適用しない現行の評価方法となります。
ですが、本通達の適用対象から外れているからといって、現行の評価が必ずしも適正額であるというわけではありません。その評価が著しく不適当と認められる場合には、こちらも従来通り総則6項が適用されることに留意が必要です。
詳細につきましては、担当者までお問い合わせください。

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2023年11月28日

日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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